白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の・・・♪
こんにちは

山田歯科クリニックでは、8月12日(木)より8月19日(木)まで、夏休みをいただきます。
(なお、8月20日(金)は9:30より診療いたします。)
ということで、お休み前、最後の診療である本日は、
ちょっと趣向を変えて「歯」 と文学作品についてお話します

日本で一番古い歴史を持つ文学の形式は和歌です
和歌によく出てくる言葉といえば・・「花」 や 「恋」 ですね
よく使われる言葉は簡単に知ることができますが、
逆に「使われない言葉」は中々気がつきにくいものです
こんな書き方をすると 「『歯』は和歌には出てこないの??」 となりますが、
やはり古今集や新古今集に出てくるような古典的な和歌には 「歯」 は出てこないようです

歯は口の中に隠れているものなので、
そのようなものを取り上げるのは生々しいことであり、
「みやび」からは程遠いというのが理由かもしれません


私は子どもの頃、百人一首が好きでしたが、
「涙」 や 「髪」 は出てきますが、顔の部分を指す言葉はあまり見かけませんでした


これが明治以降の和歌になるとたとえば若山牧水の歌でこんなものがあります

「われを恨み 罵りはてに 噤みたる 母のくちもとに ひとつの歯もなき」
作者を口をきわめて罵った母はよく見ると、歯がみんな抜けた年寄りだった
という歌です
この頃では、「美しいもの」 だけでなく、人生に題材をとるようになってきたのですね
口をつぐんでいるのに歯がないことがわかったというのですから、牧水の母は口元がすぼまったようになっていたのでしょう・・
この時代、入れ歯は高価だったので歯が抜けてもそのままにしていたものと思われます
牧水と言えば、
「白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒はしづかに 飲むべかりけれ」
がよく知られています

「白玉の」 は 「歯」 に対する枕詞のように使われています
「秋の夜にしみじみと一人飲む酒は歯にしみとおるようなすばらしい味がする」
ということで、酒飲みが酒を賛美するときに引き合いに出す歌です

「歯」という言葉を使ったなかでは一番美しい歌だと思います

石川琢木では
「夏来れば うがひ薬の 病ある 歯に沁む朝の うれしかりけり」
という歌が『一握の砂』にあります
「病ある歯」とは虫歯のことでしょう


私の好きな歌をもう一首
「ひややかに 罎(びん)のならべる 棚の前 歯せせる女を かなしとも見き」
「歯せせる」 は 「歯を磨く」 ことだと思われます

歯を磨くのは朝ですから、そのような姿を見せる女性は作者と男女の関係なのでしょう
「かなし」 は 「いとしい」 「可愛いと思う」の意味です

和歌の研究では、「どの言葉がよく使われているか」が論じられることが多くあります
和歌は非常に限られた字数で表現されるものですから、そこで使われる言葉はこのブログの何千何万倍も重みがあるでしょう
和歌でよく使われるのは 「花」 ですが、この同じ 「花」 が万葉集では梅を指し、
新古今集では桜を指しているそうです
「花」 の使われ方を知ることで当時の人たちの自然観の移り変わりを知ることができるのですネ
このように、和歌において「どの言葉がよく使われているか」 に注目するのは、
必然のなりゆきです・・・が

一方、「歯」のように 「使われなかった言葉」 に注目するのもおもしろいですね

「何が語られたか」 ではなく、「何が語られなかったか」 によって見えてくることが
あるのです


ということで、今日はちょっと長くなりました
秋の夜が恋しいです・・一人しみじみとお酒を飲みたいものです

立秋とは名ばかりの厳しい暑さがつづいております
お体には気を付けてどうぞ元気でお過ごしくださいね


山田歯科クリニックでは、8月12日(木)より8月19日(木)まで、夏休みをいただきます。
(なお、8月20日(金)は9:30より診療いたします。)
ということで、お休み前、最後の診療である本日は、
ちょっと趣向を変えて「歯」 と文学作品についてお話します


日本で一番古い歴史を持つ文学の形式は和歌です

和歌によく出てくる言葉といえば・・「花」 や 「恋」 ですね

よく使われる言葉は簡単に知ることができますが、
逆に「使われない言葉」は中々気がつきにくいものです

こんな書き方をすると 「『歯』は和歌には出てこないの??」 となりますが、
やはり古今集や新古今集に出てくるような古典的な和歌には 「歯」 は出てこないようです


歯は口の中に隠れているものなので、
そのようなものを取り上げるのは生々しいことであり、
「みやび」からは程遠いというのが理由かもしれません



私は子どもの頃、百人一首が好きでしたが、
「涙」 や 「髪」 は出てきますが、顔の部分を指す言葉はあまり見かけませんでした



これが明治以降の和歌になるとたとえば若山牧水の歌でこんなものがあります


「われを恨み 罵りはてに 噤みたる 母のくちもとに ひとつの歯もなき」
作者を口をきわめて罵った母はよく見ると、歯がみんな抜けた年寄りだった
という歌です

この頃では、「美しいもの」 だけでなく、人生に題材をとるようになってきたのですね

口をつぐんでいるのに歯がないことがわかったというのですから、牧水の母は口元がすぼまったようになっていたのでしょう・・

この時代、入れ歯は高価だったので歯が抜けてもそのままにしていたものと思われます

牧水と言えば、
「白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒はしづかに 飲むべかりけれ」
がよく知られています


「白玉の」 は 「歯」 に対する枕詞のように使われています

「秋の夜にしみじみと一人飲む酒は歯にしみとおるようなすばらしい味がする」
ということで、酒飲みが酒を賛美するときに引き合いに出す歌です


「歯」という言葉を使ったなかでは一番美しい歌だと思います


石川琢木では
「夏来れば うがひ薬の 病ある 歯に沁む朝の うれしかりけり」
という歌が『一握の砂』にあります

「病ある歯」とは虫歯のことでしょう



私の好きな歌をもう一首

「ひややかに 罎(びん)のならべる 棚の前 歯せせる女を かなしとも見き」
「歯せせる」 は 「歯を磨く」 ことだと思われます


歯を磨くのは朝ですから、そのような姿を見せる女性は作者と男女の関係なのでしょう

「かなし」 は 「いとしい」 「可愛いと思う」の意味です


和歌の研究では、「どの言葉がよく使われているか」が論じられることが多くあります

和歌は非常に限られた字数で表現されるものですから、そこで使われる言葉はこのブログの何千何万倍も重みがあるでしょう

和歌でよく使われるのは 「花」 ですが、この同じ 「花」 が万葉集では梅を指し、
新古今集では桜を指しているそうです

「花」 の使われ方を知ることで当時の人たちの自然観の移り変わりを知ることができるのですネ

このように、和歌において「どの言葉がよく使われているか」 に注目するのは、
必然のなりゆきです・・・が


一方、「歯」のように 「使われなかった言葉」 に注目するのもおもしろいですね


「何が語られたか」 ではなく、「何が語られなかったか」 によって見えてくることが
あるのです



ということで、今日はちょっと長くなりました

秋の夜が恋しいです・・一人しみじみとお酒を飲みたいものです


立秋とは名ばかりの厳しい暑さがつづいております

お体には気を付けてどうぞ元気でお過ごしくださいね


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